「不良は出ないはず」という思い込みが検査を狂わせる

外観検査は人間の判断に依存すると、心理的な要因から精度が揺らぎます。特に問題となるのが「思い込み」や「先入観」です。

例えば、生産ラインで不良がほとんど出ていない期間が続くと、検査員は無意識のうちに「不良は出ないはずだ」と考えてしまいます。この状態でわずかな欠陥が現れても、「見間違いだろう」と判断して見逃してしまうことがあります。

心理学ではこれを「ロー・プリバレンス効果(low prevalence effect)」と呼びます。欠陥の出現率が低い状況ほど、人は「ないもの」とみなし、実際に存在する不良を見逃す傾向が強まります。空港の手荷物検査の実験では、危険物の出現率が2%しかない条件で、見逃し率が約46%に達したという結果もあります。外観検査も同じ構造を持つため、この先入観の影響を免れることはできません。

AIによる外観検査は、この心理的バイアスに左右されません。AIは統計的に学習した特徴に基づいて判定を行い、欠陥が「出にくい状況」であっても確率に基づいて同じ基準で検出します。つまり「出ないはず」という思い込みを持たないため、希少な不良を拾い上げる力に優れています。

人間はどうしても心理的影響を受けますが、AIを導入することで「欠陥が少ないほど逆に見逃しやすい」という根本的な問題を補うことができます。外観検査の自動化が求められる背景には、このような人間の心理的限界も大きく関わっているのです。

Shinya Kataoka

I serve as Director & Factory Manager at KYOWA CASTING (Thailand) Co., Ltd., and am the Founder & CEO of The 7th Engineering Co., Ltd. With a background in aluminum die-casting and mechanical engineering, I developed IVI-360™, an AI-powered 360-degree visual inspection system designed specifically for die-cast products.

https://ivi-360.com
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