AIを育てるのは現場の知見。データセントリックが導くダイカスト外観検査の革新
はじめに
AIによる外観検査が普及する中で、精度や安定性に物足りなさを感じる現場も少なくありません。その原因は、AIモデルそのものではなく、学習に使われるデータの質にあることが増えています。近年注目されているのが、データセントリックという考え方です。これは、モデルではなくデータを主役としてAIの性能を引き出すアプローチです。
この記事では、ダイカスト製品の外観検査においてなぜデータセントリックが重要なのか、そして当社のIVI-360がその実践にどのように貢献できるかをご紹介します。
モデルよりもデータが結果を左右する
これまでのAI開発では、どのようなモデルを使うかが注目されてきました。しかし、実際の検査で安定した結果を出すためには、どのようなデータを使ってAIを訓練するかが決定的な要因となります。
例えば、特定の不良の画像が不足していたり、撮影条件にばらつきがあったり、アノテーションが曖昧であった場合、いかに高性能なモデルであっても誤検出や見逃しが発生します。
ダイカスト製品に潜む検査の死角
アルミダイカスト部品は、リブ構造や箱状の形状をしており、不良が発生しやすい場所は外面だけとは限りません。側面や下面に不良が潜むことも多く、これらは定点カメラでは捉えにくい部位です。
加えて、製品ロットごとに不良傾向が変わることもあり、例えば新しい鋳造ロットでは下面に不良が多く見られるため、急きょその箇所の検査ポイントを増やしたいという要求が出てくることもあります。
こうした変化に迅速に対応するためには、装置ができるだけシンプルであることが必須です。現場の事情に合わせて撮像範囲や角度を柔軟に調整できる仕組みが求められます。
IVI-360による柔軟な全周撮像
IVI-360は、被検査物を回転させながら、自在に移動するカメラで360度全周からの撮像を行う構造を採用しています。これにより、以下のような利点が得られます。
・側面や下面なども一度の製品セットで検査
・さまざまな照明や背景条件で撮影データを取得しAIモデルを汎化しやすくする
・視点設定を簡単に変更でき、現場の要望に柔軟に対応
このように、IVI-360はデータの質を高めるための撮像装置であると同時に、現場の実情に合わせて進化できる土台でもあります。
AIを育てるという考え方
AIによる検査は一度完成させて終わりではなく、継続的に改善していく取り組みです。現場で発生した新しい不良や製品の変化を、いかに迅速にデータに反映できるかが重要になります。
IVI-360は、検査装置としての役割を果たしながら、同時に高品質な学習用データを安定的に収集する仕組みを提供します。これは、AIを現場の変化とともに育てていくための基盤となるものです。
まとめ
外観検査においてAIの性能を最大限に引き出すには、モデルの高度化だけでは不十分です。重要なのは、どれだけ良いデータを継続的に作り出せるかという視点です。
IVI-360は、現場の変化に柔軟に対応しながら、データの一貫性と質を両立させることができる検査装置です。ダイカスト製造の現場において、AIとともに品質の進化を支える存在として、今後ますますその価値が問われることになるでしょう。