人による外観検査研究の歩み──見逃しと向き合ってきた歴史
外観検査は、製造業に限らず多くの分野で「最後の砦」として活躍してきました。そして、その人間の検査能力や限界を明らかにしようとする研究は、古くから世界中で行われています。
戦後の品質管理と外観検査研究
1950年代から60年代にかけて、品質管理の一環として「人はどれだけ不良を見逃すのか」という研究が盛んになりました。心理学の知見が持ち込まれ、検査精度と疲労・集中力の関係、検査速度とのトレードオフが数多く報告されました。
航空整備でのベンチマーク実験
1980〜90年代には、米国FAA(連邦航空局)が航空機整備での目視検査の信頼性を検証。小さな亀裂を探す実験で、熟練検査員間でも検出率に大きな差があることが分かりました。これは「人の検査はばらつく」という事実を数値で示した代表例です。
医療画像と低出現率効果
2000年代以降は、空港手荷物検査や医療画像診断で「ロー・プリバレンス効果」が注目されました。異常が少ない状況では人は「ない」と思い込み、実際の欠陥を見逃しやすいことが実験で示されています。これは製造現場の「不良が少ないほど見逃しやすい」という経験則と一致します。
現在──AIとの接点へ
近年はAIや画像処理技術が進み、人間の検査精度と比較する研究が増えています。特に「人はどのようにパターンで判断するのか」「無次元的な特徴量をどう扱っているのか」といった認知科学的な視点が注目されています。